歯周病と全身のかかわり

SILENT DISEASE
忍び寄る全身に及ぼす影響

歯周病は、むし歯と並び歯を失う原因になる二大疾患です。
初期では自覚症状が乏しく知らず知らずのうちに進行してしまう特徴があります。
しかし、歯周病は初期のうちに発見し予防することが可能です。
また、歯周疾患は「歯の周りの病気」と書きますが、その影響はお口の中のみならず、全身疾患に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。

近年の研究では、歯周病と糖尿病が双方に悪影響を及ぼすことや、歯周病が日本人の死因の2番目の心疾患、3番目の肺炎、4番目の脳血管疾患に深く関わっていることが分かっています。
その他、歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない方に比べて早産や低出生体重児のリスクが高まることも分かっています。
逆に、全身疾患によって歯周病が悪化するケースも報告されています。

ひらい歯科医院は、各科の専門医(歯周病・インプラント・矯正・根の治療・咬み合わせ)の総合的な診断に基ずく治療を受けられる「街の歯科病院」を目指しています。各専門領域の医師が集結したチーム医療による全体治療で、お口のなかだけでなく全身の健康まで見据えた歯周病治療をご提供しています。

THE EFFECTS
歯周病と全身疾患との関わり
脳血管疾患

脳梗塞の患者は歯周病菌に感染している割合が高いことが明らかになっています。
これは、血流に乗って歯周病菌が全身をめぐることで、脳梗塞の原因となる動脈硬化を引き起こしている可能性があるからだと考えられています。
脳の血管のプラーク(粥状の脂肪性沈着物)が詰まったり、頸動脈や心臓から血の塊やプラーク(粥状の脂肪性沈着物)が飛んで来て脳血管が詰まる病気です。歯周病の人はそうでない人の2.8倍脳梗塞になり易いと言われています。
血圧、コレステロール、中性脂肪が高めの方は、動脈疾患予防のためにも歯周病の予防や治療は、より重要となります。

心疾患

歯周病に感染すると歯茎から血管内に細菌が侵入し、血流によって心臓に運ばれることで感染性心内膜炎をはじめとする心臓疾患を引き起こすリスクが生じます。感染性心内膜炎のガイドラインにも歯周病をはじめとする口腔内疾患を治療することが明記されています。

歯周病の人は歯周病でない人と比べて、心疾患を発症するリスクが高いことが明らかになっています。また、歯周病が重症なほど、その発症リスクが高くなるとも言われています。
中でも、心筋梗塞や狭心症の虚血性心疾患は、心臓の冠状動脈にアテローム性プラーク(血管沈着物)が形成され閉塞されていくことで生じる病気です。血管内に侵入した歯周病原性細菌やその病原因子などが、血流に乗って冠状動脈に達するとアテローム形成が加速化。その結果、心血管の病気が発症しやすくなります。歯周病に罹患していると、心血管疾患の発症リスクは1.15〜1.24倍高まると言われています。

糖尿病

糖尿病の推定患者数は約700万人(日本糖尿病学会調べ,2005)と言われていますが、「糖尿病」には網膜症・腎症・神経障害・末梢血管障害・大血管障害などの合併症があり、歯周病はこれらに続く第6の合併症と捉えられています。そのため糖尿病患者さんの多くに重度の歯周炎が見られます。また、歯周病原菌が起こす炎症の影響で、TNF-αが生産されます。
この有害物質が血糖値を低下させる作用を持つインスリンの効きを阻害する(インスリン抵抗性)ため、歯周病患者は血糖コントロールが改善しにくくなる。したがって、歯周病治療を行うことで炎症が収まり、サイトカイン濃度が低下すれば血糖コントロールの改善に影響を与えると考えられています。
糖尿病の治療とともに日ごろから、お口の中を清潔に保つことがとても大切です。

肥満

最近の研究では、肥満自身が歯周病の原因となることが分かってきました。肥満の人の内臓脂肪には、TNF-α(腫瘍壊死因子)という物質が多く分泌されます。糖分を血液中に吸収させてエネルギーに変えるインスリンの働きをTNF-αが妨害するため、糖分が過剰になり肥満になるのです。TNF-αはそれだけでなく、古くなった骨を分解する骨吸収を促進し、歯槽骨も分解され溶けていくような状態になり、歯周病の悪化を招きます。
また、歯周病が肥満を促進し、悪循環を呈することも、最近の研究で分かっています。肥満の人はそうでない人と比べ、20歳以下では1.7倍、25~30歳では3.4倍も歯周病にかかっているという研究結果が出ています。厄介なことに、歯周病菌は壊滅してもエンドトキシン(内毒素)という多量の毒素を分泌し、血液中を全身に循環します。その毒素がTNF-αの分泌を活性化させ、肥満を促進するのです。肥満は悪化すると糖尿病になり、さらにTNF-αの分泌が増えるため、悪循環は強化されます。

早産・低体重児出産

女性と歯周病との関係で注目せざるを得ないのが「早産・低体重児出産」です。妊娠中はホルモンの変化などによって歯ぐきの炎症が起こりやすくなり、歯周病になる人も少なくありません。これが「早産・低体重児出産」の危険度を高めてしまっているのです。
歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない人に比べて早産・低出生体重児の確率が約2~4倍
にもなるという報告もされています。
妊娠中はつわりなどにより歯みがきなどの口腔清掃が不十分な状態になりやすく、歯周病になりやすいです。歯肉の血管から侵入した歯周病原性細菌やサイトカインが血流に乗って子宮に達すると、子宮筋の収縮を引き起こして早産や低体重児出産になる確率が高まると考えられています。
早産や低体重の赤ちゃんは病気にかかりやすく、障害を負ってしまうリスクも高まります。

関節リウマチ

関節リウマチとは、手足の関節がこわばったり痛んだりして、進行すると関節の変形をきたす病気です。近年、関節リウマチと歯周病の相関関係が注目されています。
歯周病菌がもつ物質がリウマチの症状を引き起こす可能性まで証明されてしました。ほかの糖尿病などと違って、歯周病菌の代表であるジンジバリス菌だけが産生する物質そのものがリウマチの発症に関連することもここ数年で明らかになりました。

この歯周病の細菌がつくり出す毒素(炎症性物質)によって関節リウマチが発症・進行したり、関節リウマチの症状が重くなったりすること、また、歯周病治療によって関節リウマチの症状が改善されることが明らかになっています。
歯周病は細菌感染症ですので適切な治療を早いうちからおこない、定期的チェックをおこなうことで悪化しません。
内科検診などで健康状態を評価するだけでなく自分の歯茎の状態、歯周病の有無を歯科医師と十分に相談することも全身的な病気を引き起こさないために大切なことです。

骨粗鬆症

長年の生活習慣などにより、骨量が減少して海綿状になり、もろく折れやすくなった状態が「骨粗しょう症」。高齢の女性に多く見られる病気として知られています。
全身的に骨が弱くなると、歯を支える歯周組織にも影響があると考えられています。
まだ充分に解明はされていませんが、歯周病になった歯肉で産生されるサイトカインには、骨代謝に影響を及ぼすものがあり、歯の喪失と骨密度の減少には関連があるという研究報告があります。逆に、骨粗しょう症の人が歯周病に罹患すると、歯周組織の歯槽骨が急速に吸収されることで症状が進行しやすくなる可能性が知られています。

誤嚥性肺炎

通常、食べ物や唾液は食道を通り胃にはいります。しかし、誤って気道に入り込むことがあります。気管に入った唾液中の細菌などが肺に感染して起こる肺炎が「誤嚥性肺炎」。
高齢者に多く見られる病気の一つです。特に、要介護の高齢者などは飲み込む力や咳反射が低下しているため、唾液やプラークなどが気管に入りやすく誤嚥を起こします。
誤嚥し肺に入り込んだ歯周病原性細菌などのお口の中の細菌が肺炎を起こしやすくすると考えられています。
実際、この病気の多くの患者さんから歯周病原性細菌が見つかっているのです。そのため、高齢者に口腔ケアを行い、歯周病原性細菌等の口内細菌が減少すると肺炎の発症率が下がることが報告されています。