歯周病とは、歯の周囲の組織(歯肉や歯根膜・セメント質)に炎症が起こる病気の総称であり、歯肉に炎症がとどまっている「歯肉炎」と炎症が根の周りの骨まで広がっている「歯周炎」があります。
口腔内の細菌による持続的な混合感染である歯周病は、歯を失う怖い病気であるのは間違いない事実ですが、最近、特にテレビ、雑誌などで取り上げられ
ようになってきている全身の病気との関係が特に注目されてきています。
歯を失うことにより、物がよく食べられなくなり、脳への刺激が減少するこが認知症の発症を促すことも分かってきています。
特に歯周病菌の内、歯周病に大いに関係するレッドコンプレックスと呼ばれる3菌種のうちの一つである、P.gingivalis菌が分泌するタンパク分解酵素であるジンジパインが、脳の神経細胞を変性させ認知症を発症させるという歯科界を揺るがす科学論文が平成31年1月「Scienence Advances」という一流ジャーナルに掲載されました。この内容で注目するところは、新開発のジンジパイン阻害薬によりアルツハイマー病が治療できる可能性が示唆されている事です。
ただし、多量のP.gingivalis菌が脳内に移行するのは、重度歯周炎患者さんだけと考えられるので、皆がP.gingivalis菌が原因で認知症になるわけではないのですが。
むし歯菌(ミュータンス菌)や歯周病菌が血液を介して全身の臓器に病気を起こしている歯原性菌血症も問題になっています。
歯周病は、全身の病気と関連があり、他臓器や全身状態にも悪影響を及ぼし、例えば、脳疾患・心臓病・糖尿病、・誤嚥性肺炎・関節炎(リウマチ)・腎炎・骨粗鬆症・メタボリックシンドロームなど多岐に関わっていると言われております。
また歯周病と全身疾患との関連性において、歯周病菌が口腔から血液を介して感染するルートだけではなく、歯周病原細菌を含むdysbiosis(正常からの逸脱)に陥った口腔細菌を恒常的に飲み込むことで、腸内細菌のバランスが崩れ、有害細菌の比率が高まることで全身的な炎症を起こし、結果いろいろな臓器に病気を起こす原因となっている可能性が示唆されています。
ウイルス感染症に対して口腔ケアー(お口の清掃)がとても重要視されています。それは、口腔内細菌が、プロテアーゼやノイラミニダーゼ(NA)という酵素を出し、ウイルスを口腔粘膜に侵入しやすくし、増殖を促しているからです。また、歯周病による炎症もウイルス感染を促進します。
ウイルスは、口腔粘膜、特に舌の表面に多く生息していており、肺炎を起こす原因にもなっており、免疫力の弱い高齢者においては、誤嚥性肺炎により重篤化する症例が多く見られます。
このことは、正しい口腔ケアーが行われることにより、ウイルス感染を抑制できる可能性を示唆しており、実際に奈良県歯科医師会の調査で、介護施設で歯科衛生士が高齢者に対してブラッシングや舌磨きの指導を実施したところ、通常の歯磨きをした施設に比べてインフルエンザの発症率が10分の1に激減した実例があります。
上記の事は、新型インフルエンザウイルスが口腔粘膜、特に舌の表面に多く存在していることが分かっている点においても、通常のハキガキはもとより、舌の清掃の重要性を示唆しております。
つまり、歯周病を予防、治療することで口腔内を管理し、良好な口腔細菌のバランスを維持することで、歯周病やウイルス感染症、歯原性菌血症を防ぐことができ、ひいては、多くの病気の予防に役立つことができます。当医院では、歯周病の専門医による治療や、経験豊富な衛生士によるお口の管理指導を行い、患者さん自身が多くの自分の歯で噛むことができ、健全な口腔状態を維持していただくことにより、健康長寿を全うしていただけるように日々研鑽努力をしております。
歯周病は、我が国民の半数以上、成人に限れば8割以上が抱えていると言われており、成人の抜歯原因の第1位を占めている病気です。
その歯周病は、初期の内にはほとんど症状を現さず、サイレントディジース(静かなる病)とも呼ばれており、症状が現れる頃には、病気はかなり進行しており、歯を支えている骨がなくなってしまい、出血や排膿や歯の動揺の症状が現れ、歯の保存が難しくなってしまう病気です。歯周病は、別の言い方をすると慢性炎症疾患であり、火種がくすぶりながら周りを焼けつくすように、その進行は徐々にではあるが、確実に組織を破壊してしまう怖い病気なのです。
このように、これまでの歯科治療は、「歯の健康」、「お口の健康」を守ることに終始してきましたが、これからは、「口腔の健康を介して全身の健康を守る」ということが重要になります。
そのような点を踏まえて、当医院が、歯周病という病気に対してどのような方針で、どのような治療方法やどのような口腔管理を行っているかについて説明していきたいと思います。